登録文化財山口家住宅・苔香居にて開催された、着物を楽しんでいただくこの会では、虫干しを通して、蔵出しされた着物を一点一点鑑賞していただきました。
この400年も続く旧家 山口家住宅・苔香居には、主催者である20代目当主の山口俊弘さんのお母さまや、先々代にあたる律子さんが誂えた着物が箪笥11竿に保管されており、その数は約440点だそうです。
そもそも虫干しとは、虫がつかないように着物を広げてメンテナンスする作業のことで、通常数日に渡って涼しい所で陰干しを行います。しまう日である今回は、名の方にご参加いただき、前回虫干しされた約50点の着物を元の箪笥に収納しました。
一点一点をより丁寧に解説をしていただき、皆様にゆっくりと鑑賞いただけるよう、今までの虫干しの会よりも広げる数を抑えたのですが、それでも時間が足りない程でした。
解説を行って下さったのは、大正初期から続く呉服染め卸問屋「まつや古河」の古河一秀さんです。
居間には前回の広げる日に運ばれ、虫干しされた着物が、たとう紙という長期保存に長けた紙に包まれて複数の部屋に渡ってずらりと並んでいました。
参加者の皆さんには最初に居間に集まっていただき、今日の流れなどをご説明した後、広げる日とは異なり、早速古河さんに着物の解説をしていただきました。
居間に並べられている着物を紹介するため、もちろんラインナップは広げた日と同じですが、ピックアップされる着物やその順番は異なります。
今回、記事でも取り上げたいのは、こちらの夏物の絹の着物です。
先々代の律子様ではなく、お母様、もしくはお姉様の着物かもしれないとのことで、ご当主の山口さんも「東京のような雰囲気を感じる」と仰っていました。こちらは執筆者である私が実際に羽織らせていただいたのですが、とても軽やかで、服の上からでも涼しげな雰囲気を感じ取ることができました。また、羽織る最中から参加者の皆さんから思わずといった歓声があがり、中には「着ると(印象も)違う」といった声もありました。古河さんも「着物は立体になることを想定して作られるので、広げて見るのとはやはり印象も変わってきます。」と仰っており、参加者の方の多くが、なるほどと頷かれていました。
また、これは私の主観ですが、着ている姿を見るのと、自分が着た状態で着物を見るのでも見え方が少し変化したように感じます。下の写真では白のラインが印象的な雰囲気ですが、実際に羽織って見下ろすように見ると、紫が目に飛び込んでくる様な、鮮やかな印象を受けました。
今回の虫干しでは他にも何着かを実際にスタッフが羽織ったり、参加者の皆さんに羽織って頂いたりして鑑賞を行いました。もちろん全てが貴重な着物に変わりはありませんが、特に着物なども、他と同じように羽織って鑑賞しました。
こちらの記事では、お昼休憩後に行われた、特に貴重な着物をご紹介します。お昼休憩前には主に日常的に着用されたとされる着物を重点的に紹介されていたのですが、そちらは広げる日の方の記事に少し詳しく記載しておりますので、興味のある方は是非とも併せてお読みください。
下にあるのはごく一部の写真です。
お昼休憩後の一番最初に紹介されたのは、こちらの婚礼衣装でした。
現代の和婚で着用する白無垢とは違い、文字通り三枚を重ねて着る「三枚重ね」の婚礼衣装です。大正時代ではこちらの方が主流だったそうで、お色直しも二枚を重ねて着る「二枚重ね」のお着物でした。
下にある写真はお色直しの二枚重ねの婚礼衣装です。
さて、この三枚重ねの婚礼衣装ですが、黒が一番上になるように白、赤、黒の順で着ていくそうです。黒には松、赤には竹、白には梅が描かれており、正面から松竹梅が覗く何とも上品な雰囲気がありました。この着物の柄の入れ方は「両づま」というそうで、左右対称かつ表と裏に同じ柄が施されています。やはりこの着物は参加者の皆さんも興味津々で、着物が広がる度、重ねていく度に歓声があがりました。
重ねて着るため当然といえば当然なのですが、実際に羽織ると意外にも赤の竹の柄や、白の梅の柄が見えず、先述したように、正面から見る時に初めて柄が覗く上品さがありました。裏側にも、重なって見えないところにも、惜しげも無く柄が施されていることを知った上で羽織った際の姿を見ると、また違った印象を受けます。参加者の皆さんの中には「なんて贅沢で上品なの」と感嘆の息を漏らす方もいらっしゃいました。
対して、この婚礼衣装に併せて仕立てられた丸帯はとても豪奢です。
この帯が紹介された時の歓声が一番大きかったと感じているのですが、それも頷ける迫力がありました。赤や朱といった暖色、群青や緑といった寒色が見事に調和した状態でカラフルにデザインされており、白の鶴がとても際立っています。写真からもその迫力は伝わるかと思いますが、やはり実際に鑑賞すると糸一本一本の光沢を感じることができ、より一層迫力がありました。
この婚礼衣装はもちろん先代のお祖母様の婚礼の儀のために仕立てられた着物なのですが、実は婚礼後にある一枚が仕立て直されています。
先述したように白、赤、黒の順に重ねていくため、必然的に黒が一番大きいサイズで仕立てられるはずなのですが、実は、黒の袂の長さが白や赤よりも短いのです。つまり、婚礼の儀が終わった後にわざわざ黒の婚礼衣装だけが仕立て直されているということになります。
何故そのような仕立て直しが行われたのかは、もちろん古河さんから解説いただいたのですが、こちらは是非実際に参加して解説をお聴きください。私が初めてこの解説を聴いた時は、なんて粋なことをするのだろうか、と感動しました。また、解説を聴いた後に再度黒の婚礼衣装を見ると、嫁入りする女性の覚悟のようなものを感じることができ、日本文化の良さ、着物の良さを再確認することができました。
自由鑑賞の後はたとう紙に着物を包み、それを一人につき一、二反ほどを居間から箪笥まで運んでいただきました。この作業を何回か繰り返し、すべて番号順に再度保管します。
そして再び居間に集まっていただき、皆様から一言ずつ感想をいただいた後、ツアー形式で苔香居内の紹介を行ってお開きとなりました。「貴重な着物を鑑賞するだけでなく、まさか実際に羽織ることができるとは思わなかった。」というような感想も多かったです。
次に虫干しが行われるのは5/6(月)、5/9(日)を予定しております。虫干しを行う着物は一部を除き毎回異なりますので、少しでも興味を持たれた方は是非ともご参加くださいませ。
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